2019年のセンター試験国語の第一問(評論文)を見ていきます。
このブログを初めて読んだという方は次の記事を先に読んでください。
kokugo-gendaibun.hatenablog.com
それでは早速2019年のセンター試験現代文を解説します。
問題をお手元にご用意ください。
現代文唯一の公式=読解の3ステップ
必ず次の3ステップで読むことを忘れないでください。
本文の前半には必ずこれらが書いてあります。この3ステップを踏み間違えないように、読解ナビを穴埋めしていきます。
2019年センター試験第一問のテーマ
本文のテーマは必ず冒頭に出てきます。
本文を半分くらい読み進めてからようやく本文のテーマが出てくることはありません。
なぜか?それは受験問題は長い本のほんの一部分を切り取って問題とするからです。
長い本の中では話が脱線することもありますが、受験問題に出す文章の文字数は限られていますので、、無駄のないように必要な個所だけを抜き出します。
ですので冒頭からテーマについて書かれている、むしろテーマが明確に書かれている部分が好んで出題されるのです。
第一段落を読んでみてください。ざっと見ただけでも、同じ単語が何度も繰り返されていることに気付きませんか?
この第一段落だけで「翻訳」という単語が5回も出ていきます。
本文のテーマは「翻訳」以外にあり得ません。
なお、本文の最後に記載されている出典元の名前が「翻訳をめぐる七つの非実践的な断章」ですので、それを見て翻訳がテーマであると予想した人もいるかもしれません。
今回の場合はそれでも正解ですが、本全体のテーマと受験問題として抜き出された一部分のテーマが同じとは限りません。
かならず本文を読んでテーマを探すようにしてください。
現代文読解ナビ
1 本文のテーマは(翻訳)である。
2019年センター試験第一問の二項対立
次に翻訳に関するどんな対立を話題にしているのかを見つけます。
実は第一段落に既に書かれています。
第一段落に「楽天的=翻訳は可能だ」という考えと「悲観的=翻訳は不可能だ」という「二つの対極的な考え方」が出てきます。
本文の中にわざわざ「二つの対極的な考え方」とわかりやすく明言してくれています。
これを見逃すわけにはいきません。
が、万が一見逃してしまっても、今回の本文はとても親切で、第二段落と第三段落でもう一回わかりやすく繰り返してくれています。
第二段落では「まず楽天的な考え方についてだが、」と翻訳が実現している、「翻訳は可能だ」という説明をしています。
「しかし」で始まる第三段落では悲観的な「翻訳は不可能だ」という説明をしています。
現代文読解ナビ
1 本文のテーマは(翻訳)である。
2 テーマについて(翻訳は可能だ)という側と(翻訳は不可能だ)という側がある。
設問になっている傍線部まで早く本文を読み進めたい気持ちやもあると思いますが、文章を理解しないで傍線部の周りだけ読んで答えを探しても正解はできないように問題は設計されています。
まずはナビを完成させることを目指してください。
2019年センター試験第一問の筆者のポジション
それではナビの最後の項目、筆者が二項対立のどちらのポジションにいるかを見つけます。
次の第四段落に書かれています。
「しかし、こう考えたらどうだろうか」と考えを提示する予告をする分かりやすい入り方をしている第四段落ですが、筆者はここで「まったく違った文化的背景の中で、~別の言語に訳して~それがまがりなりにも理解されるということじたい、~奇跡のようなこと」だと、第二段落や第三段落で出された文学作品の翻訳例を念頭に翻訳の存在を認め、それを「奇跡」であるとポジティブに評価しています。
難しいことだけれども奇跡は起こっているということです。
つまり筆者は「翻訳は可能」であると考えているのです。
これでナビが完成しました。
現代文読解ナビ
1 本文のテーマは(翻訳)である。
2 テーマについて(翻訳は可能だ)という側と(翻訳は不可能だ)という側がある。
3 筆者は(文化的差異を超えて異なる言語で相手にまがりなりにも伝わるという奇跡は実際に起こっているの)だから、(翻訳は可能だ)の側である。
2019年センター試験第一問の問2
これから問題を解いていきますが、先ほど完成させた現代文読解ナビを常に頭の中で確認しながら進めていくようにしてください。
傍線部Aは筆者が自身のポジションを表明した第四段落の最後に引かれています。
傍線部Aは「楽天家」という筆者と同じ側です。
つまり筆者と同じ考えが書かれた選択肢=読解ナビと同じことが書かれた選択肢を選べば良いのです。
選択肢①~⑤の中で、読解ナビの内容に合致するものはどれでしょうか。
反対に、選択肢だけを読むと正しそうでも、読解ナビに出てこない話題を書いている選択肢や、筆者と反対のポジション、つまり「翻訳は不可能だ」という意見が書かれていただその選択肢は不正解です。
ざっと見たときに、読解ナビ3の筆者の主張とその理由をそのまま記述している選択肢④が正解だと気付けたでしょうか。
選択肢①は「翻訳家」というテーマが読解ナビ1に反しますし、「翻訳家になれるかなれないか」という二項対立が読解ナビ2に反しますので不正解です。
選択肢②は「文学作品が書かれた言語」というテーマが読解ナビ1に反しますし、奇跡はたやすく起きませんので不正解です。
選択肢③は「文学作品の難易度」や「翻訳の質」というテーマが読解ナビ1に反しますので不正解です。
選択肢⑤は「読書体験」というテーマが読解ナビ1と反しますし、「言語で読むか翻訳で読むか」という二項対立が読解ナビ2に反しますので不正解です。
このように、設問を解くときはその傍線部が筆者と同じ側の文章に引かれているのか、筆者と対立する側に引かれているのかを確認し、常に読解ナビに書かれていることを意識しながら選択肢を読みます。
もしこの設問が記述問題であったらどうすれば良いでしょうか。
読解ナビ3の内容を制限字数に合わせてそのまま書くことで満点が取れるはずです。
字数をコントロールする作業が必要になってきますが、これについては記述式の過去問を使って別の機会で解説したいと思います。
2019年センター試験第一問の問3
傍線部Bが引かれている第九段落はどのようなことが書かれている段落でしょうか。
最初に読解ナビを完成させましたが、第四段落まででナビは完成してしまいました。
つまりここまでで筆者の言いたいことはすべて言い切った形になります。
このような場合、残りの段落はすべて事例などを使って補足説明する段落=おまけの段落となります。
おまけだから不要なものかというと決してそんなことはありません。
一方的に自分の意見を言い放っただけでは聞いた相手が納得してくれません。
会話であれば誰に向かって話しているか意識しながら言葉を選べますし、暗黙の了解でわかってもらえることもあります。
しかし書かれた文章は誰が読んでいるかわかりませんし、当然赤の他人が読みますので暗黙の了解もありません。
そのため丁寧に補足説明をしていく必要があるのです。
この補足説明が上手いか下手かでその文章全体の良しあしが左右されます。
さて、第九段落を読んでみてください。
ここでは英語の "I love you."を翻訳する事例が挙げられています。
"I love you."という趣旨の発言を日本語ではあまりしないので、難しいけれどもまがりなりにも翻訳して伝えられていることが記述されているので、「翻訳は可能」であるという事例説明をしている段落であり、読解ナビ3の内容を事例を提示して説明している段落です。
設問の選択肢の中で読解ナビ3と同じ内容が書かれているのは選択肢②です。
選択肢①は「翻訳本来の役割」、選択肢③は「翻訳の理想」、選択肢⑤は「翻訳家の責務」という部分が「翻訳は可能か不可能か」という読解ナビ2に反するので不正解です。
また選択肢④は「翻訳不可能」と言っているので不正解です。
2019年センター試験第一問の問4
傍線部Cも翻訳は可能であることの説明をしている段落に引かれていますね。
設問では「筆者のどのような考え方がうかがえるか」と聞かれています。
筆者の考えは読解ナビ3を振り返ってください。
翻訳は可能ではあるけれども、奇跡のように難しいと述べているのはどの選択肢でしょうか。
選択肢②ですね。
選択肢①は翻訳家の理想と一般読者の理想という対立軸が読解ナビ2に反しますので不正解です。
選択肢③は原文が標準か非標準かという対立軸が読解ナビ2に反しますので不正解です。
選択肢④は翻訳によって超えるものが文化的差異ではなくて時代になっているので読解ナビ3に反しますので不正解です。
選択肢⑤も関係ない対立軸(選択肢中では「二方向の目的」)が出されているので読解ナビ2に反しますので不正解です。
このように選択肢には本文と関係ないテーマや対立軸をそれらしく埋め込み、受験生を混乱させようとします。
長文を読んでいると様々な話題が出てきて、後から出てきた話題の方が大切なのではないかと考えてしまうこともありますが、筆者が最初に提示したテーマ・二項対立・主張と理由が後から変わることは絶対ありません。
一度読解ナビを完成させたら、何度も何度もナビに立ち戻って考えるようにしてください。