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2020年の山形大学国語(人文社会科学部)の大問三を見ていきます。
小熊英二編著『平成史』に収められている貴戸理恵「子ども・若者と「社会」とのつながりの変容」からの出題です。
問題は3つだけですべて記述式ですが、作りがどれも同じです。
本文の二項対立構造を掴んだ上で、その一方の補足説明や具体例を聞く問題が並んでいます。
本文は二項対立のそれぞれの説明をずっと続けていますが、出題者は本文に出てくるどちらの事例がどちらの側にあり、どのように対比されているか、受験生が整理しながら読めているかを聞いているのです。
それでは早速解いていきますので、問題をお手元にご用意ください。
山形大学 2020年 国語 現代文(人文社会科学部)のテーマ・二項対立・筆者のポジション
第一段落一文目で日本の学校教育について話が切り出され、続く第二段落でも引き続き日本の学校教育について解説されています。
本文のテーマは日本の学校教育で間違いありません。
ここで一つ、筆者からの重要なメッセージをお教えします。
第一段落一文目に「成功しすぎ」と「」がかけられています。
会話文以外に用いられている「」や“”はいわくつきの括弧といい、筆者が思っていることはその反対、もしくは括弧内のことに疑問を持っています。
この場合は筆者は日本の学校教育は失敗していると思っているか、失敗までいかなくても成功とは言えないと考えているのです。
さて、テーマについて、何が二項対立として置かれているでしょうか。
二項対立の片方は日本の学校教育における何かであるわけですので、日本と海外を比べるのか、近代日本と近世や中世の日本を比べるのか、候補をある程度想定することもできます。
第三段落三行目に「イギリスと比べると」とありますので、日本と海外を比べているようです。
ただし第六段落にドイツ、フランスの例示も出てきますので、比較対象はイギリスだけではなく、日本と西欧という構図のようです。
さて、次に筆者のポジションを探しますが、その前に、第四段落の記述に着目することができたでしょうか。
第四段落では「この~歴史的条件のもとで、~次のような特徴が生まれていった。」とあり、続けて「第一に~、第二に~、第三に~」と文章が構成されています。
つまり本文では第四段落より前に学校教育成立過程の歴史的条件が述べられ、第四段落より後にそのようにして成立した学校教育の特徴が述べられているのです。
そして成立過程と特徴の双方で日本と西欧が比較されています。
これを一つ一つ、日本側/西欧側に分けて整理しましょう。
筆者はそのような成立過程と特徴を持った日本の学校教育を冒頭で「成功しすぎ=失敗または成功しているわけではない」と考えているわけです。
最終段落の最後の文で筆者は日本の教育を総括して「形骸化」という言葉を使っています。
筆者は「日本の学校教育は形骸化しており成功しているとは言えない」というポジションです。
読解ナビの穴埋めが完成しました。
読解ナビ
1 本文のテーマは(日本の学校教育)である。
2 テーマについて(日本での成立過程および特徴)と(西欧での成立過程および特徴)がある。
3 筆者は(日本の学校教育は形骸化しており成功しているとは言えない)という立場を取る。
山形大学 2020年 国語 現代文(人文社会科学部)の問一
学校教育の成立過程について、イギリスの事例と日本の事例が対立的な視点で捉えられているかを問う問題です。
本文に記載されている日本側の記述を抜き出して書き込めば正解です。
傍線部のある段落内では日本とイギリスの比較が二回行われています。
一つは法制化の年が日本の方が早かったこと、もう一つは教育ニーズと国家による制度化がどちらが先かです。
答案にはこの二つの要素を両方書き込まなければなりません。
山形大学 2020年 国語 現代文(人文社会科学部)の問二
開放性の反対は閉鎖性ですから、日本の学校教育は開放的で西欧の学校教育は閉鎖的ということです。
具体例として中等教育の教育内容が持ち出され、西欧では中等教育は旧支配層や中産階級の文化・技術継承の場であったのに対し、日本では中等教育はそういった役割を持たされませんでした。
第六段落内には日本の中等教育の開放性の具体的な表現は出てきませんが、対立している西欧の例の反対を書けば正解です。
西欧では中等教育において特定の階級が優位であったのですから、日本は階級に関係なく中等教育が開かれていたということです。
山形大学 2020年 国語 現代文(人文社会科学部)の問三
文字数が多いので敬遠されてしまいがちですが、問題としては難しくはありません。
傍線部では日本と西欧の学校教育の特徴を対比してきた「第一に~、第二に~、第三に~」の日本側の記述を字数制限に注意しながら書き込めば正解です。
参考書などでは「傍線部の言い換え問題だから、それぞれ要素文化して類似の表現を本文から探してこよう」などと解説されることがありますが、文章の構造がしっかりと掴めていればどこから探せばよいかが一目でわかりますし、抜け漏れもありません。
「言い換え探し」でありがちなのは、どこから探せばよいかわからずに探した結果、要素のダブりが生じてしまい抜け漏れが発生することや、時間がかかってしまうことがあります。
文章を読んだときにしっかりと読解ナビを完成させ、本文に記述される具体例が二項対立のどちら側の話なのかを整理しながら読むことが高得点への近道です。