愛知学院大学(現代文文学部、心身科学部、商学部、経営学部、経済学部、法学部、総合政策学部) 2020年 国語 現代文(随想/随筆)
2020年の愛知学院大学(現代文文学部、心身科学部、商学部、経営学部、経済学部、法学部、総合政策学部)の国語第一問は現代文で佐藤信夫『レトリックの記号論』という本から取られています。
この本自体はレトリック研究をする元国学院大学教授による文章で評論文(論説文)にあたります。
ただし入試用に切り取られた部分だけで見ると、ほぼ随想のタッチで描かれています。
入試で随想が出る大学もありますので、その練習と思って読んでほしいと思います。
随想の特徴としては、評論文(論説文)のように明快な文章構造は無く、自身の主張などはリズム、雰囲気、それこそレトリック(表現技法)で伝えます。
そのリズムや雰囲気を作っていく方法として、文章で話されている話題がトントンと軽快に変わっていくことが挙げられます。
Aという話をしていたらいつの間にかBという話になっていた、ということもあります。
論説文だと読者がうまくついてこれない書き方は良くない書き方となりますが、随想(随筆)の場合は「気づいたら話題が変わっていた、これは一本やられたなぁ」などと上手い文章と捉えられます。
ただし、その文章を全体に橋をかけているテーマは同じです。
古典で『枕草子』の「うつくしきもの」を習いませんでしたでしょうか。
枕草子は随筆になりますが、「うつくしきもの」はうつくしきもの=かわいいものというテーマの中で様々な例とその理由などが次々に出てきて場面がトントンと変わっていきます。
今でも書店に行けばこのような随筆(随想)=エッセイは数多く並んでいます。
愛知学院大学2020年国語現代文佐藤信夫『レトリックの記号論』抜粋箇所
それでは出題された箇所はどのような話をしているでしょうか。
筆者が子どものころに聞いた絵本の広告コピーから話が始まります。
広告コピーのレトリック(表現技法)について話をするのでしょうが、どんな話であるかは読み進めていくとわかります。
第四段落までは「おもしろくてためになる」と一見背反していそうな表現を並べた広告コピーから、同様の表現は他の場面でも見られ、反語(というレトリック)の有効性が示されます。
「ところで」から始まる第五段落からは「おもしろくてためになる」かは買って読んでからでなければわからないということで、視点が買う前に移ります。
筆者もそうですし、他の多くの人も、出版社名からその本がどんな本なのかを推察していることが述べられます。
そしてその推察の正答率は五分五分なのだそうです。
最終段落では「買う前に自身が持っているイメージで物事を推察して行動している」という書店での購買行動の話から横滑りして喫茶店に視点が移ります。
一つ目は外見がよさそうな喫茶店でも入ってみると接客が良くないという話で、二つ目は昔の記憶をもとにまずいコーヒーを飲みに通い続けている人の話になり、筆者はそのような人が「きらいではない」と述べています。
客観的な評価(あきれはてたまずいコーヒー)と自身の評価(昔の記憶のとおりおいしいコーヒー)が背反している、つまり反語の状態が「きらいではない」のです。
背反する表現を並べるレトリックが有効(ポジティブ)であるという話が、日常に起こる背反的な状況が「きらいではない」(ポジティブ)という話に戻ってきました。
人々は常に論理的であるわけではないからでしょうか、背反的な状況を好んだり受け入れるところがあるので、反語表現は有効なレトリックなのだ、という主張です。
一見すると話がコロコロ変わり論理的でない文章のように見えて、最終的に論理的なところに着地しているのも随想(随筆)の特徴であり醍醐味です。
随想の練習として最後に通しで読んでみてください。